アップルパイの怪

私が店で素通りできない食べ物のひとつに、アップルパイがある。パン屋のそれは時にパイ生地がカサカサしており、いかにも欧州的な乾きを感じて好きでないのだが、ごくまれに私好みのものにめぐり合う。今、それは某コンビニでオリジナル商品として発売中である。

以前、そのパイを短い間に何度も食べ、いい加減食べ飽きてこの先1年は要らない、と思っていた矢先、その事件は起きた。
いつものように牛乳を買いにコンビニに出かけると、いつものようにアップルパイはそこにあった。が、以前とはわずかに姿が異なっていた。「さらにおいしくなりました」とシールが貼ってあったのだ。どこがどう違うんだ、とパイに聞いてみたが返事はない。りんご増量とかいう具体的な表示はなく、おいしくなったと言うだけ。どうも胡散臭い。店員に聞こうかとも思ったが、黒豆並みに気の小さい私に実際聞けるはずもない。かれこれ10分ほど立ちすくみ、ついに決心してパイを購入した。頭の中では、私ってバカかもしれんとこだま。

そしてさっそく家で食べてみた。案の定、同じじゃねーか。小さなシール一枚だけで購買意欲を刺激するコンビニ側のずるさに軽い怒りを覚えたが、同時に消費者心理をうまくついてると感心し、何よりその幼稚な商戦にまんまと乗ってしまった自分に、唯々ためいき。でもうまかった。

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抑うつ包囲中

昨日今日と仕事を休んでいる。10月から、一週間連続して勤務できた日があっただろうか。気持ちとしては仕事に行く気でいるのに、睡眠も薬の力を借りてきちんと取っているのに、朝起きたら体が動かない。職場のことを考えるだけで吐き気を催し、頭痛や動悸が後に続く。とりあえず職場に連絡し、吐き気止めの薬を飲み、回復するまでじっと横になる。その間大抵悪夢を見る。どんな夢か覚えていないが、リアルで、現実との区別がつかなくなるような、危ういものが多い。

亀山郁夫の『ドストエフスキー父殺しの文学』(上・下)を大体読み終えた。癲癇の発作に度々襲われながら書き続けた天才の生涯についても詳しく書かれており、感嘆とともに今ドストエフスキーの著作が人気となっているのも分かる気がした。彼の生涯や問題意識について、「これって私か?」と思うところもあり、最初は読んでいてかなり痛かった。病んだ状態の時に読む本ではないかもしれないが、非常に面白かった。『悪霊』は学生時代に読み映画も観たが、もう一度読んでみたい。

親しい人に電話したりメールを送ったり、何とかしたいと自分なりにいろいろやるものの、なかなか回復しない。処方された薬も3種あったが体に合わず、今は安定剤を中心に経過を見ている。気が弱くなっているせいで、回復する時は果たして来るのだろうかと不安になる。できるだけ問題となっている仕事から目をそらせ、と友人にも言われ、本を読んだりドラマを見たりしているが、根本的な解決になるのかは分からない。

藁にも、ではなく石にもすがりたい気持ち。
フローライトにブルーレース、モッカイトと、たくさんの石アクセサリーが私を囲んでいる。ライトグリーンやペールブルーの石に惹かれるが、自然とヒーリング効果の高い石を求めるようになった。身に付けたり、手にとって見ているとホッとする。でもそれでも、仕事に行けない時は行けない。

仕事をやめたらどうなるかとついつい考える。やめてどうするか、と積極的には考えられない。こんな状態の時に考えたところで良い答えにはたどり着けないと分かってはいるのだが、気がつくと考えている。病休→休職→退職、その後は?真っ暗。生きるのって、こんなにしんどいことだったっけ。そこを考えるのはやめようと自分に言い聞かせる。
本を読み、小説の構想を膨らませ書くことから、突破口が見つかるといいのだが。
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ドラマ「点と線」、どうしてもたけし礼賛ムード

24,25日とテレ朝で松本清張の「点と線」のドラマが放映された。初ドラマ化ということもあり、私は万が一に備えて録画のセットまでして臨んだ。・・・期待が大きいと、失望もまた大きいね。
原作を読んだことはないのだが、犯人のアリバイ崩しに奔走する2人の刑事に焦点が当たりすぎていて、彼らが必死に追う事件に潜む大きな闇が十分には描かれていなかったように思う。ラスト近くで犯人が見せた冷酷さ、もう一人の犯人が浮かべた激しい嫉妬の表情など、この犯人たちを殺人に駆り立てたものと背景をじっくり見せてこそ、刑事たちの必死さや対決の面白さが際立ったのではないか。それがないまま二人はあっけなく死んでしまい、刑事たち同様私も呆然であった。
ところで、日本には何故だかビートたけしを絶賛する空気がある。映画は素晴らしい、演技も自然体、数学の才能もある・・・などなど。でも彼の演技はともかく、あの持ち上げられようはいかがなものか。「たけしさんあっての今回のドラマです!」というプロデューサーの鼻息が聞こえてきそうだ。自然体っていうが、かなり棒読みなところもあるんだけど。
高橋克典は今回大役だった。特命係長(同じテレ朝)やっててよかったね。おっさんの好きな要素てんこ盛りのB級ドラマで、好きなドラマでした。2枚目だけどトホホ感にもあふれていて、特命以来注目しています。ちょっと黒すぎるケド・・・。
昭和のドラマなら音楽はどうしても坂田晃一なのか?「おしん」とか、いいときはパーンとはまるけど、今回はメロドラマすぎる感があった。音楽ひとりあるき。一昨年のNHKドラマ「ハチロー」ではすごく良かったから、以来音楽が坂田晃一と聞くとそのドラマを見てみたくなる。その期待も大きかったのかもしれないな。
でもラストのたけし演じる刑事の手紙は、最近のドラマにはない骨太さがあって良かった。「悪を働く者たちが出世していく世の中であっていいのか?」

それにしても、こういうディープ清張ものを見ていると、映画「ALWAYS三丁目の・・・」とかってやっぱり単純すぎるんじゃないかと思う。あの時代、実際はまだまだ戦争の生々しい記憶が人々の中にあったのだし、汚いことだってたくさんあった。それを見つめずして「昔は人情があって良かったね」、と号泣してああすっきりした!か?ここでもやっぱり、映画そのものだけでなくその持ち上げられ方、受け取られ方も気になる。
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菌祭りの夕べ

今アニメで話題の「もやしもん」を見て私は毎週和んでいる。あの丸くてぷよぷよした浮遊物、愛らしい菌たち。が、見た目と異なり中には凶悪な菌もある。身近なところではO-157、ボツリヌスとか。
しかしここでいう「凶悪」というのは、あくまでヒトにとって凶悪ということなのだ。菌たちに悪意があるわけではなく、ただその特性、生き方としてそうしているだけであり、小役人根性と激しい劣等感から行われる上司たちの横暴とは全く異なるのである。
惹かれるのは、かわいいからだけじゃないんだ。人間レベルの善意や悪意と関係なく生きているあの菌たちに目を向けることで、私はかすかな光を感じるのでありますよ。人間は文字通りわけが分からなくなっているんであります。ありとあらゆる生き物の中でヒトというヘンテコな生き物がいるだけなのと思うと、自分がちっぽけな石ころか何かになったようで、ホッとするのかも。
菌たちのさらなる活躍に期待しつつ、今晩は、しめじとエノキをふむふむといただきました。冬はキムチ鍋(キムチは素晴らしい発酵食品。文字通り菌祭りです)にどっかり入れて食べるのが常だが、いつ食べても飽きの来ないニクい味。菌バンザイ!
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ブレスレット、とめて

ロマンティックではなく、ブレスレットがとまらない・・・かなり古いぞ、いやスマスマで稲垣がやってたから今流行りかも・・・私はその店で途方にくれていた。何でこんなことができない?ふらふらと迷い込んだアクセサリー屋で、好きな石のひとつ、フローライトに目がとまり、私はそのブレスレットを購入した。
仕事を辞めようかとも考えているのに、衝動買いしていいのか?と強めのツッコミが入ったものの、守護能力の強い石を今私はひどく必要としているんだ、と打ち負かし買ったのだった。
購入の際、私は店員にあることを訊いた。・・・あの、ブレスレットってどうやってつけるのがいいんですか?
店員は一瞬きょとんとしていたが、その後そうかそうか、と優しく私に教えてくれた。いろんなやり方を実演を交えて。が私は一向にできない。体をいろいろに傾け、手をくねらせ、もがく女。
思わずつぶやいた。一体、私は何をやってるんでしょうね・・・。それを聞いて店員の顔に浮かぶ苦笑。まあ、朝急いでるときにはやらないほうがいいですねー。力を入れると切れちゃいますからねー。
ますますのプレッシャーを感じる。ここでつけられなければ家でも絶対つけられない。なぜなら、家で何分も格闘して結局付けられず、ブレスレットを投げつけたことが何度もあるからだ。だから店でようやく付けられた時の安堵感といったら。しばらく外したくなかった。

昔から、人が簡単にできることが自分にはうまくできないことがよくあった。周りの人はなぜあんなにたやすく、すいすいとこなしていけるのか不思議だった。そしてできない自分が情けなかった。たとえば、簡単な機械のふたが見つからないとか、くぎがまっすぐに打てないとか、無印の簡易本棚を組み立てるのに半日かかり、くたびれ果てて翌日熱が出たとか、インターネットの接続方法が分からず、数ヶ月間モデムを放置していたとか、とにかくたくさん。
私は職場でも時にはなはだしく、ある担当事業では、屋内スリッパを履いたまま参加者とバスに乗り込み、出発してから指摘され、宿にバスごと戻ったことがある。関係者の爆笑を誘いこの話は伝説となった。私のこの部分を人間味があっていいと言ってくれる人もいて有難いが、私としては長年自分のこの有様を見ているので落ち込むことも多い。
手際良くテキトウに仕事を片付けたり、テキトウに愛想良く皆と付き合うことが難なくできる人を、大きな羨望と軽い軽蔑の眼差しで私はいつも見つめている。
明日ブレスつけられるだろうか・・・。早起きせねば。



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みかん My Love

スーパーでみかんを大量に買った。みかんをたくさん食べるのは、みかんが好きだからである。当たり前のようだが、味が好きなだけではないのだ。丸くて小さく、形がいいと目で愛でる、皮をむく時には上手にできるか軽くチャレンジを感じ、ゆっくりと口に含んでビタミンと糖分そして水分補給。
丸っこい形に惹かれる傾向があるが、みかんも例外ではない。じっと見つめていると顔が見えてくるので、「食べてもいい?」と聞いてみる。たまに「いやー」とかわいく言われると、私のサド心に火がつき、それでも食べちゃうぞとみかんに挑みかかる。同様の現象は、みかんだけでなく「那須の月」や小籠包、まんじゅうにも起こる。「もやしもん」にハマってる人は私のこの会話は十分リアルと理解するだろう。
生きることがしんどいと言いつつ、そしてそれは本当のことではあるのだが、実際けっこう楽しんでるじゃないかと自分にツッコミ。だがこれが人生なのかもなあ。辛いのと、楽しい(おいしい)のと、振幅が大きければ大きいほど、実は人生を満喫しているということになるのだろうか。
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リービ英雄の午後

作家のリービ英雄が同基金の日本語賞を受賞し、今日はその記念講演会があった。彼はアメリカ人だが、日本語で執筆する作家である。彼のことは万葉集の英訳で知っていたが、本は読んだことがなかった。

彼は若いときに万葉集に惹かれ、奈良を訪れたが、そのちっぽけな自然に最初は失望した。しかし後に、あの自然を見てあれだけのものを書くことができた当時の日本人の想像力の素晴らしさに感嘆し、それ以来30年以上も、万葉集にハマッているのだという。卒業しようとしても、万葉集はなかなか離れない。きっと一生の付き合いになるのだろう。それって私のドイツか・・・?と彼とレベルは違うけど、蒼白。
多和田葉子や水村美苗などとの対談の話もあり、なかなか楽しい講演会であった。彼の言うところのBilingual Excitement(多言語的高揚感)を久しぶりに感じた。

講演でname droppingという言葉をおぼえた。著名人の名を自分の知人であるかのように持ち出し、自慢話をすること。日本語にはない表現です。
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プロフィール

Author:フローライト
☆連絡先 : seraphinitedeepgreen@yahoo.co.jp
☆尊敬する人物:広末アイドル絶頂期に「マジで屁が出る5秒前」を歌った嘉門達夫
☆好きな食べ物:みかん、たいやき
☆大事な本:ドイツ鎮魂歌、アステリオーンの家(ボルヘス)、ハドリアヌス帝の回想(ユルスナール)、近代能楽集(三島由紀夫)、黒い時計の旅、Xのアーチ(エリクソン)、ムーミン谷の冬(ヤンソン)、ユルスナールの靴、ヴェネツィアの宿(須賀敦子)、怪物(アゴタ・クリストフ)
☆よく聴く音楽:クラシック、ジャズ、アルゼンチンタンゴ、R&B(70年代)
☆印象深い映画:春夏秋冬そして春(2002韓国=ドイツ)、ムッシュ・カステラの恋(2002フランス)、オアシス(2002 韓国)
☆好きな言葉(というか惹かれる音):ビビデバビデブー、ボボ・ブラジル、マントヒヒ

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